実家の空き家を相続放棄したあとも、管理を続けなければならないのか。気になっている方は少なくありません。2023年4月施行の改正民法940条で、放棄後に保存の義務を負うのは、放棄の時に実家を「現に占有」していた人です。放棄の期限は相続を知ってから3か月、申述先は被相続人の最後の住所地の家庭裁判所です。この記事では、申述の手順、放棄前に避けたい処分、全員が放棄した後の流れ、放棄以外の選択肢を順に整理します。
実家の空き家を相続放棄するには、いつまでにどこへ申し出ますか
期限は、自己のために相続の開始があったことを知ったときから3か月以内です。申述先は被相続人の最後の住所地の家庭裁判所で、実家の所在地や自分の住所地とは限りません。
申述に必要な期限・費用・書類
裁判所の案内では、次のとおりです。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 期限 | 相続の開始を知ったときから3か月以内 |
| 申述先 | 被相続人の最後の住所地の家庭裁判所 |
| 費用 | 収入印紙800円分(申述人1人につき)と連絡用の郵便切手(金額は裁判所ごとに異なる) |
| 主な書類 | 相続放棄の申述書、被相続人の住民票除票または戸籍附票、申述人の戸籍謄本(申述人の立場により追加あり) |
(裁判所「相続の放棄の申述」、2026年10月30日確認)
放棄すると、実家以外の財産も受け取れなくなる
民法939条は、相続の放棄をした人を、初めから相続人とならなかったものとみなすと定めています。裁判所の案内にも、被相続人の権利や義務を一切受け継がないとあります。
実家の土地と建物だけでなく、預貯金などのプラスの財産も受け取れません。決める前に、財産の全体を確かめてください。
相続放棄の前に、実家の家財を片付けてもよいですか
申述の前に実家の家財や預貯金を処分すると、相続放棄ができなくなるおそれがあります。民法921条1号は、相続人が相続財産の全部または一部を処分したとき、単純承認をしたものとみなすと定めています。保存行為は、この規定から除かれています。
手を付ける前に確かめたい作業
どこまでが保存行為かは、個別の事情で判断が分かれます。迷いやすい作業の目安を表にしました。
| 作業 | 目安 |
|---|---|
| 家財・家電・車・預貯金の売却、廃棄、引き出し | 処分にあたる可能性があるため、判断が済むまで止める |
| 業者への遺品整理・解体の依頼 | 契約が処分にあたる可能性がある。先に専門家へ相談する |
| 戸締まり、郵便物の回収、倒れそうな庭木の応急処置 | 保存行為として扱われる余地がある。内容によって判断が分かれる |
この表は公式の明文ではなく、実務上の助言です。放棄を考えている間は、片付けを始める前に弁護士か司法書士へ相談してください。遺品整理の費用の分け方は、遺品整理の費用は誰が払う?で確かめられます。
相続放棄した後も、空き家の管理義務は残りますか
放棄後に保存の義務を負うのは、放棄の時に実家を現に占有していた人だけです。民法940条1項は、放棄の時に相続財産を現に占有しているときの義務を定めています。相続人または清算人に引き渡すまで、自己の財産におけるのと同一の注意で保存しなければなりません。
2023年4月1日の改正で何が変わったか
法務省の資料によると、改正前の940条は、放棄した人が管理を継続しなければならないと定めていました。要件や内容が明らかでなく、放棄をしたのに過剰な負担を強いられる例があったためです。改正法は原則として令和5年4月1日に施行されました。
改正後は、義務の範囲が「放棄の時に現に占有している財産」と明記され、引き渡すまで続きます。
自分は義務を負う側かを確かめる
| 放棄の時の状況 | 保存義務 |
|---|---|
| 放棄の時に実家に住んでいた、実家を管理していた | 現に占有していれば、引き渡すまで負う |
| 実家に住まず、占有もしていなかった | 940条の保存義務の対象にならない |
| 鍵を預かっている、定期的に通っていたなど | 占有にあたるかは事情で変わる。専門家に確かめる |
3行目のような境目の事例は、条文だけでは判断がつきません。申述の前に、弁護士か司法書士へ確認してください。
全員が相続放棄した実家は、最終的に誰のものになりますか
相続人全員が放棄した実家は、相続財産法人として扱われ、家庭裁判所が選ぶ相続財産清算人が管理・清算します。民法951条は、相続人のあることが明らかでないとき、相続財産を法人とすると定めています。裁判所の案内でも、全員が放棄した場合が清算人の選任の対象に含まれています。
清算人が選ばれるまでの流れ
- 相続人全員が家庭裁判所で放棄の手続きを終える
- 利害関係人か検察官が、被相続人の最後の住所地の家庭裁判所へ清算人の選任を申し立てる
- 家庭裁判所が清算人を選任し、権利を主張する期間を定めて公告する(この期間は民法952条2項で6か月以上とされています)
- 清算人が債務の支払いなどを進め、残った財産は国庫に帰属する
申立人になれるのは、債権者・特定遺贈を受けた人・特別縁故者などの利害関係人と、検察官です。放棄した自分が申立人にあたるかは、弁護士か司法書士に確かめてください。
申立てにかかる費用
裁判所の案内によると、収入印紙800円分と連絡用の郵便切手のほか、官報公告料5,582円が必要です。官報公告料は、家庭裁判所の指示があってから納めます。管理費用が不足しそうなときは、予納金を求められることがあります。
実家を占有している方の保存義務は、清算人へ引き渡すまで続きます。申立ての担い手は、早めに専門家と決めておいてください。
放棄せずに土地を手放す国庫帰属制度は使えますか
実家を相続した人が土地を手放す方法として、相続土地国庫帰属制度があります。相続または遺贈で土地を取得した人が法務大臣(法務局)に承認を申請し、負担金を納めると、土地が国のものになります。制度は令和5年4月27日に始まりました。
申請できない土地と、承認されない土地
法務省の資料は、次の土地を申請できないとしています。
- 建物がある土地
- 担保権や使用・収益の権利が設定されている土地
- 通路や墓地など、他人の利用が予定される土地
- 土壌汚染がある土地
- 境界が明らかでない土地、所有権に争いがある土地
申請できても、勾配30度以上かつ高さ5メートル以上の崖があり管理に過分な費用がかかる土地などは、承認されません。
実家の土地に建物が残っている場合は、建物がある土地にあたります。国庫帰属を使うには、建物を取り壊した状態で申請する形になります。
負担金と手数料
負担金は、国が10年間管理する費用に相当する額です。法務省の資料では、宅地・田畑・雑種地などは面積にかかわらず20万円です。ただし、一部の市街地(市街化区域や用途地域の指定地域)の宅地・田畑は、面積に応じて算定されます。森林は面積に応じた額です。審査手数料は、土地1筆につき1万4,000円です。
相続放棄との違い
| 比べる点 | 相続放棄 | 相続土地国庫帰属制度 |
|---|---|---|
| 手放す範囲 | 預貯金も借金も含む相続財産すべて | 取得した土地 |
| 窓口 | 家庭裁判所 | 法務大臣(法務局) |
| 費用 | 収入印紙800円分と郵便切手 | 審査手数料1万4,000円(1筆)と負担金(宅地は原則20万円) |
| 建物 | 建物ごと引き継がない | 建物がある土地は申請できない |
(裁判所と法務省の資料をもとに作成。2026年10月30日確認)
売って現金にする道は、実家じまいと空き家売却の関係で整理しています。
相続放棄をするか残すか、どの順番で決めればよいですか
迷ったときは、3か月の期限から逆算して進めてください。以下は公式の明文ではなく、実務上の進め方です。
- 相続の開始を知った日をメモし、3か月の期限日を出す
- 家財・預貯金に手を付けず、財産と借金の一覧を作る
- 放棄すると、次に相続する立場の親族にも影響が及ぶため、事前に連絡する
- 弁護士か司法書士に、放棄後の保存義務の有無まで含めて相談する
- 放棄するなら家庭裁判所へ申述し、残すなら親が亡くなったあとの実家の選択肢で行き先を決める
読者タイプ別の目安です。
- 実家に住んでいた方: 占有していれば放棄後も引き渡すまで保存義務が続くため、申述の前に専門家へ状況を伝えてください
- 遠方で住んでいなかった方: 占有していなければ保存義務の対象外です。鍵を預かっている場合は、占有にあたるか確かめてください
- 土地だけを手放したい方: 建物を取り壊したうえで、国庫帰属制度の要件を法務局で確かめてください
よくある質問
相続放棄をしたあと、実家の管理は誰がするのですか
放棄の時に実家を現に占有していた人は、相続人または清算人に引き渡すまで保存する義務を負います。占有していなかった人は対象外です。全員が放棄した場合は、清算人が管理・清算を進めます。
相続放棄の手続きは、専門家に頼まないとできませんか
自分で申述できます。裁判所へ納めるのは、収入印紙800円分と連絡用の郵便切手です。専門家の報酬は事務所ごとに異なるため、見積もりで確かめてください。
相続放棄をしない場合、空き家を手放す方法は国庫帰属制度だけですか
売却も選べます。建物付きのまま売る方法と、取り壊して更地で売る方法があります。建物を残したまま手放したいときは、売却が向いています。
本記事に記載の制度・費用は、2026年10月時点で公開されている情報をもとにした目安であり、実際の金額や要件は裁判所・法務局・自治体によって異なります。個別の法律判断や税務判断が必要な場合は、自治体の窓口や弁護士・司法書士・税理士などの専門家にご相談ください。